研 究

計算数理研究室

プロフィール(略歴)

1983年東京大学工学部物理工学科卒業、1988年同大学大学院工学系研究科物理工学専攻第1種博士課程修了(工学博士)。 1988年筑波大学電子・情報工学系助手、1990年同講師、1993年徳島大学工学部助教授、1996年同教授、2014年同志社大学教授。日本数学会、日本応用数理学会、情報処理学会、日本計算数理工学会の各会員。共通一次試験(センター試験の前身)元年の受験生、国立大学法人化を経験、高等教育変革の荒波にもまれる。現在の専門分野の研究者との交流以外にも、スプリング8やスーパーコンピュータの開発者との交流あり。学童野球チームのコーチや硬式野球部部長・監督を歴任、日体協のスポーツリーダーの資格取得、大型免許取得、野球を科学することが趣味。

専門分野
  • 数値解析
  • 微分積分方程式
  • 多倍長計算
  • スペクトル法
  • 大規模並列計算
  • 逆問題
計算数理研究室
今井 仁司 教授

代表的な仕事

 逆問題は、地下資源探査などに代表される大変重要な実用問題です。 実用問題では、解の具体的性質を明らかにする必要がありますが、理論解析は困難を極めます。 そこで活躍するのが計算機を用いた数値計算・数値解析です。しかしながら、数値誤差が指数関数的に増大する逆問題では、数値計算を行うことさえ容易ではありません。この困難を、スペクトル法と多倍長演算を組み合わせて数値誤差を極限まで小さくすることで克服しました。我々はこの組み合わせを無限精度数値シミュレーション(IPNS)と呼んでいます。不可能と思われていた逆問題の直接数値計算を可能にしたことで、当時の常識を覆しました。

研究テーマ

 高性能並列計算機や高速ネットワークを用いた数値解析を主として研究しています。非常識や不可能といわれていることに常に挑戦しています。具体的なテーマは以下に紹介しますが、その他にも野球の基本動作の解析など、数学を応用して実生活を科学することにも興味をもっています。

(1) 爆発現象や分岐現象などの非線形現象の数値解析および数値計算手法の開発
 爆発現象や自由境界問題のカオス現象など、興味深い非線形現象を解析するために、高精度数値計算法を新たに開発して理論研究に役に立つ数値実験を行います。図の自由境界問題の数値計算結果は、解の振る舞いが非常に興味深く、理論研究家に大変喜ばれました。

 

 

(2) 方程式の解の滑らかさの数値解析
 方程式の解の滑らかさは理論解析では主要な研究テーマです。この解の滑らかさを数値的に調べています。とくに興味をもっているのは、解析的か単なる無限回微分可能かどうかの数値判定です。解析的であれば無限回微分可能であるため、その区別は極めて困難です。

(3) 解の非存在の数値解析
 方程式の中には、溝畑方程式のように、解が存在しないものがあります。しかしながら、数値計算では(解を近似した)数値解が得られます。これは一体どういうことなのでしょうか。宇宙人の非存在証明が難しいように、解が存在しないことを証明することは困難です。そこで、解が存在しないことを数値計算によって明らかにする研究を行っています。

 

 

(4) 超高精度数値計算のための離散化手法の開発
 スペクトル法は、任意次数近似を実現する離散化手法で、超高精度数値計算に必要不可欠であることがわかっています。ただし、特異点が近くに存在するときにはその高精度性を発揮することができません。特異点が近くに存在しても超高精度性を発揮できる離散化手法を開発したいと思っています。

(5) 多倍長演算を用いた大規模並列計算法の開発と応用
 この数十年にわたって倍精度計算が数値計算の基本でした。そのために、倍精度計算が本質的な役割をはたしているにも関わらず、そのことに注意を払わないでなされた研究がたくさん存在します。放物線のグラフで実感してもらいます(「数学」Vol.55, No.3, 2003)。下の図は倍精度計算で放物線のグラフをかきました。ちなみに,二つのグラフは重なっています。

 

 

拡大した方は数学的には明らかにおかしなものです。一方、グラフを多倍長計算でかくと次のようになります。

 

 

常識的なグラフになっています。これらは倍精度計算の限界を示しています。ところが残念なことに、倍精度計算の限界を気にする数値解析の研究者はほとんどいません。ハードウェアの進歩による今後の計算環境を考えると、倍精度計算の限界を遙かに凌駕する多倍長計算が数値計算の一つの未来像としてあげられます。そこでは、現在の研究成果・常識が否定されることも十分ありえます。大規模多倍長計算を実現するための研究を行い、現在の常識を覆したいと思います。

(6) 逆問題の直接数値計算法の開発と応用
 地下資源探査などに代表される逆問題は、莫大な利権が絡むことも多い重要な実用問題です。宇宙の起源をさかのぼるのも逆問題です。この逆問題の解析は極めて困難で、数値計算を実行することさえ容易ではありません。この逆問題の直接数値計算をIPNSによって可能にします。逆問題はIPNSの応用にとって宝の山です。様々な数値実験を行うことで理論研究の発展に貢献します。

研究内容

 実用問題・応用問題では解の性質を具体的に調べることが大切です。理論的に調べることができればそれにこしたことはありませんが、残念ながら一般的にはそれは困難であり、コンピュータの助けを借りることになります。そのような例としてスーパーコンピュータを用いた気象の数値予報は有名ですが、企業における製品開発の9割以上の作業がコンピュータを用いて行われるともいわれています。このようにコンピュータを用いた解析、数値解析は近年非常に発展しましたが、それでも理論解析にかなわないところがあります。それは、数学理論が無限の情報量を扱う一方、コンピュータは扱えないというところです。すなわち、コンピュータによる解析はおのずと限界があるということです。しかしながら,コンピュータの性能は30年で100万倍にも進歩することを考えると、いま現在の限界を気にするような研究はすぐに時代遅れとなります。コンピュータの進歩を考慮しながら、数学理論に貢献できる数値解析を目指しています。

受験生へメッセージ

 数学教育の本質は、論理思考の訓練を行うことで脳の熟成をはかることです。数学ができる人の生涯賃金は、できない人の倍といわれています。数学は古来実生活に根ざした実用的な学問として発達してきました。情報がグローバルに共有され瞬時に伝播する現代においては、数学を応用すれば若くして財をなすことも可能です。数学の応用を重視する本学科で、未来に羽ばたく準備をしませんか。